スズキ ヒナコ   SUZUKI Hinako
  鈴木 比奈子
   所属   専修大学  文学部
   職種   助教
発表年月日 2023
発表テーマ ジオパークが構築する2008年岩手・宮城内陸地震アーカイブ
会議名 日本地理学会発表要旨集
主催者 公益社団法人 日本地理学会
発表形式 その他
開催期間 2023~2023
発表者・共同発表者 鈴木 比奈子,長尾 隼,原田 拓也,佐藤 英和
概要 1. 背景と目的

過去の自然災害記録は,防災対策を立てる上で欠くことのできない情報である.東日本大震災を契機に,災害デジタルアーカイブが急速に発展した1.一方で,災害アーカイブには,利活用の課題が示唆されている2.災害アーカイブの活性化には,ジオパークで包括的に地域の特徴をまとめたコンテンツを構築し,使い手となるジオガイドとの連携により生かされるという指摘もある3.本稿では,2023年で15年を迎える2008年岩手・宮城内陸地震(以下,2008年地震)を題材に,ジオパークが主体となる災害アーカイブについて紹介し,活動展開の検討と現状の課題を通して,ジオパークにおける災害アーカイブ活用の可能性を示す.

2. 栗駒山麓ジオパークと災害資料の現状

2.1. 栗駒山麓ジオパーク

栗駒山麓ジオパークは,2008年地震を契機に成立したジオパークである.本ジオパークは,宮城県栗原市全域が対象範囲である.2008年地震により発生した荒砥沢地すべりや破損した路面など,野外に残る災害痕跡を保全し,活用してきた.過去には,景観活用委員会により,2008年地震の恐ろしさを風化させないための記録と保存が必要と提言があり4,震災アーカイブの整備が言及されている.

2.2. 災害資料の現状

2008年地震の災害資料は,ジオサイトとしての災害痕跡と災害写真や体験談などの資料群からなり,現在,大きく2つの課題が生じている.1)自然の営力,治山・砂防対策による痕跡の変化,2)人間側の変化による情報の散逸である.2008年地震で発生した斜面崩壊は,3500箇所以上といわれている.荒砥沢地すべりを除き,多くの斜面崩壊は治山・砂防対策によって,痕跡が見えなくなっている.また2008年地震に関する管理,情報や人材ネットワークを主体的に担ってきた組織や人材が,長期間にわたる担当の固定化と異動,定年退職等の時期に入り,当時の調査・研究情報の散逸が始まりつつある.

3. 災害アーカイブ構築のための活動

1)連携可能な災害資料の整理

栗駒山麓ビジターセンターには,数多くの写真画像や災害痕跡の活用に関する検討委員会の資料が雑多に集約されている.これらを公開・利用条件を明確にし,他機関との連携が可能な状態でメタデータを付与する.

2)イベントの開催

ビジターセンターで,1年間を通して企画展示やシンポジウムを開催し,情報の収集や15年前の災害を再度認識し,防災に生かす取り組みを実施する.

3)災害の可視化と発信

Web-GISを活用し,2008年地震の可視化を促す.収集資料のなかには,関係者間でのみ共有可能な資料も存在するため,限定公開可能な状態も考慮に入れる必要がある.システムは地域防災Web5の活用を検討している.

4. 課題,まとめ

現状の課題は,画像の権利処理である.ジオパークの展示利用では許可されているものの,他への活用が明確でないものも多い.特定の職員のみに資料の経緯などの情報が集中しているため,ヒアリングを行い,属人的ではない災害アーカイブの構築が求められる.

【参考文献】

1)鈴木(2021)過去の自然災害記録に見る災害アーカイブの展望―三陸沿岸の津波災害に関する事例を中心に―,地学雑誌130,177-196.

2)内山・廣内(2021)災害デジタルアーカイブを活用した災害伝承の場づくり,2021年度日本地理学会秋季学術大会予稿集,P012.

3)鈴木・佐藤(2022)リアルとバーチャルで災害を語り継ぐ-災害痕跡の見える化と活用-,日本地球惑星科学連合2022年大会,G05-P06.

4)栗駒山麓崩落地・景観活用検討委員会(2011)栗駒山麓崩落地・景観活用将来ビジョン,25p.

5)防災科研 地域防災Web https://chiiki-bosai.jp/