ヨシダ クニミツ   yoshida kunimitsu
  吉田 国光
   所属   専修大学  文学部
   職種   教授
言語種別 日本語
発行・発表の年月 2009
形態種別 MISC
標題 印旛沼湖畔集落における借地経営による大規模稲作の展開
執筆形態 未選択
掲載誌名 日本地理学会発表要旨集
出版社・発行元 公益社団法人 日本地理学会
巻・号・頁 2009(0),40-40頁
著者・共著者 市川 康夫,吉田 国光,武田 周一郎,花木 宏直,栗林 賢,田林 明
概要 1.研究課題<br>産業としての農業の維持を計るために,日本の農政は農業経営の大規模化を政策課題とし,認定農業者の優遇や,「担い手」と呼ばれる農家への農地集積をめざしている.農業者の高齢化や脱農が急速に進んだ結果,それらの農地の受手として,近年,大規模経営の増加がみられるようになった.このような状況にあって,比較的早い時期から大規模経営が成立した事例がある.このように,大規模化に成功した農家の多くは,様々な手段を駆使して農地を集積しているが,農地が集積される仕組みに焦点をあてた研究は少ない.<br>そこで本発表では,干拓による増反が実施され,農業構造改善事業を中心とする農政の影響を強く受けてきた印旛沼湖畔の水稲単作地域において,早くから大規模経営を成立させてきた条件を検討する.研究の手順としては,大規模経営の基盤にある借地を中心として,受手農家へ農地が集積されてきた仕組みを分析し,各農家による農地集積の形態の差異は,それぞれの農業経営において,いかなる役割を果たしているのかを考察し,その結果,大規模借地経営がいかに展開してきたのかを明らかにする.<br>2.研究対象地域と印旛沼干拓<br> 研究対象地域に千葉県成田市北須賀地区東西・和田集落を選定した.北須賀地区は東印旛沼の湖畔に位置している.北須賀地区は末端の行政区であり,東西と和田,宿の3集落から構成される.これらの3集落はそれぞれ自治組織を持っており,東西はさらに4つ,和田は2つ,宿は6つの班に分けられる.この他に葬儀組合や農家組合など様々な社会集団が,それぞれの異なる空間的範囲をもちながら,重層的に存在している. <br>北須賀地区における土地改良は,1936年と1969年の干拓時に2回行なわれた.戦前期の土地改良では,不整形な耕地が20aの長方形区画に,1969年の土地改良では30aの長方形区画に整備された.北須賀の水稲作は,早くから機械化に対応する基盤を備えており,多くの専業的農家が5~12haで農業経営を行っている.<br>3.北須賀地区における大規模借地経営<br>北須賀地区において,借地による農業経営の大規模化は1969年より開始された.大規模以前の北須賀における生業形態は世帯内で,複数の農業部門と漁業などを組み合わせる複合的なものであった.大正期から昭和戦前期にかけては,ほとんどの世帯が稲作と養蚕,自給用畑作を組み合わせていた.そのうちいくつかの世帯は,冬季に印旛沼での漁業も行っていた.また,宿においては水田が少なく,世帯収入に占める漁業の割合の高い世帯が多かった.この時期,多くの世帯の家計を支える生業は稲作と養蚕であり,各世帯は北須賀地区内にあった製糸場へ繭を出荷していた.<br>このような生業形態は1950年代前半まで続いたが,1960年代に入ると川崎製鉄千葉製鉄所などの進出もあり,農外就業機会が増加した.そして,家計に占める稲作を中心とした農業の役割が相対的に低下した.さらに,米の減反政策の開始により,兼業農家が所有田の多くを休耕地とした.一方で,印旛沼干拓と土地改良事業,農業構造改善事業による機械化の進展によって,大型機械を導入した農家の作業受託が増加し,借地経営による大規模化が進んだ.当初,先駆的に大型機械を導入し稲作の作業受託を行ったのは1戸の農家にすぎなかった.しかし,1970年代中ごろには周辺の農家でも,シンルイ内の離農世帯の農地を請負うこと専業的農家が増え始め,借地経営が一般化した.そして,ほとんどの専業的農家がシンルイを中心として農地を集積し,1970年代末には現在の経営形態に近いものとなっていた.<br>近年これらの農家のうち,農業労働力の高齢化により耕作の継続が困難になる事例がでてきている.そのため,周辺農家はこれらの農地を請負っているが,いずれの受託農家の経営者も60歳以上である.さらに,離農世帯のシンルイ内に農家がいない場合も発生しており,受託農家はシンルイ以外の関係にある農家の農地も引き受けざるを得なくなっている.また,離農世帯も早くに大規模化を達成しており,その跡地である農地の規模も大きくなっている.これまでの代表的な借地形態である,シンルイ内を中心とした1戸の離農世帯の農地を,1戸の受託農家が請負うもののみでは,借地経営による稲作の継続は困難になってきている.1戸の委託農家に対して複数の受託農家に分割するような形態や,地区外の大規模農家に一括して委託するなどの代替的な借地経営の方法が模索されている.<br>1990年代末より,全国的に水稲卓越地域において北須賀地区のような借地経営が進んでいるが,早くに大規模借地経営を達成した北須賀地区の抱える課題は,将来的に全国の水稲卓越地域において顕在化することが予想される.
NAID 130007014736